ブレイクポイントの支援先起業家インタビュー。
第一回は株式会社D’Arts代表取締役である高野永華さんへのインタビューをお届けします。
[高野さんプロフィール]
日本のVR業界全体の活性化に貢献するために、VRアニメのビルダーと配信プラットフォームがセットになった「Hatch-Pot VR」の開発・運営を行っている。Web/Unity/AI等、幅広い開発経験をもち、0から1を生み出すことに喜びを感じる起業家。
D’Arts:VRの発展における「ストーリーテリング」の重要性
若山 泰親(以下若山):D’Artsの事業についてお聞かせください。
高野 永華(以下高野):誰でも気軽にVRアニメ作品を作って配信できる、VR特化型の配信プラットフォーム「Hatch-Pot VR(通称:ハッチポット)」を開発しています。ハッチポットでは、日本語で脚本を書くだけで、VRアニメを作ることができます。
私はVRが発展していく上で、「ストーリーテリング」がとても重要だと思っています。何をするにも物語が面白くないと始まらないだろうというのが私の持論です。まずは「面白い物語を作る才能を持っている人を見つける」ところから始めるために、今のプロダクトを始めました。
[若山]:ありがとうございます。ストーリーテリング系のコンテンツが重要だと考えるに至ったきっかけなどはありますか?
[高野]:一番最初のきっかけになったのはMyDearestさんのVRノベル※1です。あの可能性を感じた事が、私の中で大きかったと思います。あと、私が聞いていて嫌だったのが、「VRはキラーコンテンツがあれば跳ねるし、跳ねるにはもっとVRゴーグルが必要だよね」という話でした。これに対して、マネタイズできる仕組みがどうあるべきかとか、もっと建設的な議論をすべきだと感じていました。
それで、私がそれをやるべきだろうと感じて、思い立ちました。
[若山]:デバイスの普及とコンテンツ。鶏と卵の問題ですね。その突破口がストーリーベースのコンテンツとマネタイズの仕組み作りにあるんじゃないかと考えたんですね。
[高野]:私はハードウェアに関してはどうすることもできないんですが、過去にゲームエンジンやソーシャルゲームのCMSを開発していた経験があります。大量の物語を世に出す仕組みを作る下地を持っていたので、その才能を活かして貢献できるのではないかと考えました。
[若山]:ご自身の経験もあって、まずコンテンツの量を増やして、そこで市場を作るというアプローチが最初に頭に浮かんだということですか?
[高野]:VR作品に求められているのは「質」、というのがずっとあったとは思うんですが、質のいい作品を作るためにどうするかっていう部分で皆さん悩んでいると思います。現状そこを解決できていないということがあったので、違う視点を持ってくるべきなんじゃないかと思いました。
GREEやモバゲーが立ち上がった時代は、インディーゲームがたくさん出て、そこから売れた作品が力をつけて、後にクオリティーの高い作品を出していけるようになったという流れがありました。それと同じことがVR業界でも起こるんじゃないかなと考えました。
[若山]:なるほど。最初から、コンテンツが多数生み出されるためのエコシステムやプラットフォームを作っていくべきだという思いが原動力だったんですね。
[高野]:そうですね。VR領域で活躍したい人の下地をつくるという感じでやっていますね。VRの表現方法自体がこれまでのアニメやゲームとは違うので、誰でもVRの作品を自由に作れるようにしたいという思いがありました。
[若山]:VRやゲームの開発に関わって来なかった人もVR作品を作れるようにするところが特徴ですね。D’Artsのビジネスにとって鍵になる概念かもしれないですね。
プラットフォームでビジネスを立ち上げる時は、物を作るクリエイターサイドと同時にユーザーも集めていく必要があります。今後どのようにユーザーを集めていこうとお考えですか?
[高野]:ユーザーに関しては、基本的に SNS を通じて獲得していこうと思っています。最初の段階では、ハッカソンイベントなどを通じてクリエイターコミュニティを育てながら、クリエイターの周りにいるユーザーさんを引き込んでいくような形で成長させたいなと考えています。
[若山]:優れたクリエイターや作品の周りにはユーザーが自然に集まってくると。
[高野]: はい。元からその人のファンであった方々にまずは体験してもらうのが良いかなと考えています。
[若山]:では次に、Hatch-Pot VRのビジネスモデルについてご説明いただいてもよろしいですか?
[高野]:ビジネスモデルとしては、Web コミックのように100円とか数百円で手軽にコンテンツを購入して遊べるという感じですね。そして、その売上を作品の制作に関わったクリエイター、原作者含め、声優、モデラーの皆さんにレベニューシェアで分配するという仕組みになっています。
仕組みとして、1話目は無料にする予定です。 短いコンテンツの連載形式なので、1話目は無料でそのまま課金して読み続けてもらうか、他の作品を探すかなど、ユーザーが納得できる課金ポイントを探していきたいです。というのも、これはあまり良い事ではないと思いますが、現時点で VR のマーケットは結構値崩れしてると思います。なので単純に単価をあげるということができなくても、そういう風に小分けにして売り方を変えるなど、粗利を増やす方法は必ずあると思っています。
[若山]: ピッコマのような Web コミックのサービスが近いかもしれませんね。ビジネス展開にあたって独特のノウハウが必要になってくると思いますが、高野さんが自分で研究している以外に、外部のアドバイザーなどを採用していくという考えはありますか?
[高野]: 今の時点ではそういうメンバーはいませんが、これからのロードマップとして最初に必要なのが、クリエイターのサポートをする人材です。その後に実際に販売の部分というところで、プラットフォームのノウハウを持っている人に入ってきてもらって一緒にやれたらなと考えています。
起業の経緯:VR業界で皆さんが活躍できる場を作る
[若山]:続いて、起業の経緯についてお伺いしたいと思います。起業を志して今に至るまでのお話をしていただいていいですか?
[高野]:はい。もともとVR業界全体を盛り上げていきたくて、そのために貢献する立場で参加したいという思いがありました。
[若山]:それはいつぐらいから?
[高野]:自分がActEvolve(現株式会社VARK)※2を出るときなので5年前くらいですね。自分がプレイヤーとして活躍するというよりも、本当に皆さんが活躍できる場をつくりたいっていう思いがあって今の事業を立ち上げました。Hatch-Pot VRという仕組みを持ってやっていくと決意したのは2020年12月です。この時は本当に大きい決意を自分の中にしっかり持って決めました。 EXIT目標を23年12月に設定したのもその時ですね。
[若山]:EXIT目標もその時決めたんですね。
[高野]:はい。遅くとも2025年の12月。12月に設定したのも単に12月に決断したからという感じです。
[若山]:3年〜5年というかたちで具体的にEXITを決めてスタートしたのですね。
[高野]:そうですね。起業する上で、私が皆さんに提供できる価値は何かなと考えた時に、コンテンツを作るツールという部分に思い当たりました。
一番最初は、スクリプトビルダー(実際にプログラミングコードを扱う形式)を作って、色々な人のところに持って行きました。ゲーム制作会社や経営者の立場からすると、開発コストは確実に下がるし、評判は良かったんですが、実際に原作を書くライターさん達に話を聞いてみると、触りたくないという反応だったんですね。
[若山]:なるほど。
[高野]:そうなるとスクリプターやエンジニアが原作を見ながら書いていくしかなくなってしまいます。でもこれだと私が望んでいるような形じゃなくて、それこそ VR 業界を盛り上げて、今の苦境を壊すぐらいの爆発力は生まれないだろうなというのをすごく感じました。そしてそれと同時に、自分一人の力では絶対にどうすることもできないと分かったので、2021年の2月からブレイクポイントさんのFuture Tech Accerarator※3のお世話になることにした、という流れですね。
2020年12月に「やるぞ」って決意した時に、それと同時に真っ新な自分になって、先輩たちの意見を聞いて、しっかりと成長しようと決めました。メンターの方たちの話をちゃんと素直に受け入れようとか、そういうことをその時に決めました。
起業の目的:ゼロイチの瞬間に全力を賭けたい
[若山]:元々の起業は早かったのですよね?
[高野]:D’Artsという会社は、実は15期目なんです。一番最初の起業の理由っていうのは、単純に人の下で働くのが嫌で、20代の時SEとして働いていたんですけれども、その時に会社を飛び出して、いきなり立ち上げたんですよね。その時はソシャゲのゲームエンジンとかを作って、一人で営業し始めました。
[若山]それが15年前?
[高野]:そうですね。私の父親がもともと会社をやっていたんですけれども、機械設計の小さい会社で、町工場みたいな感じでした。なので、私はそういうビジネスモデルしか知りませんでした。それで私も会社を立ち上げて、社員を雇い、システムの開発会社としてやっていたんですけれども、同じようなビジネスモデルって同じようなゆっくりした成長しかないんですよね。なのでそのやり方ではなかなか爆発力が生まれないっていうのは、その時の経験から知っていました。
XR業界でチャレンジしたいと思って、加藤さん(現VARK株式会社CEO)と一緒にActEvolveを立ち上げた時は、自分の中でそれまでの経験してきた殻を壊したいという想いがありました。なので全然考え方も違ったものを取り入れ、新しい刺激をもらおうと思っていたというところもあります。ActEvolveを退職後も、あらためてビジネスについて勉強し直しました。
[若山]:勉強していく中で色々なアイデアを着想していき、ハッチボットというアイデアが残った?
[高野]: そうですね。アイデア自体は昔からたくさんあって、それこそアイデアを出すのだけはほんとに得意でした。ただ勉強した中で、その溢れ出るアイデアに飛びつくのをまずやめなさいって書いてあったんですよね。それにすごく衝撃を受けて、そこからしっかり勉強するようになりました。
[若山]:今回、EXITの期限 まで決めてやろうとしたのはどうしてですか?
[高野]:私自身がもともと飽きっぽいので、しっかりゴールを決めたいっていうのと、私自身がシリアルアントレプレナーにもともと憧れがあるので、そういう人生を歩んでいきたいというところからしっかりとEXITを決めました。
[若山]:一度EXITしておいて、その次にまたやろうと。
[高野]:そうです。それを元手にして次の事業を立ち上げてっというのを繰り返していきたいですね。
[若山]:シリアルアントレプレナーになりたいというのは起業のきっかけとして珍しいかも。
[高野]:私は多分、上場企業の社長とかは絶対合わないですね。きっちりとした性格じゃないので。ひたすら立ち上げに関わりたいですね。
[若山]:最初のゼロイチをやるのが好きだったり得意だったりする人もいれば、ある程度立ち上がったものを伸ばしていくっていうのが好きだったり得意だったりする人もいますね。高野さんは前者だったということですね。
[高野]:ほんとにゼロイチの瞬間に全力をかけたいって感じですね。
Future Tech AcceleratorとX-DOJO後の成長:チームビルディングと壁打ち相手の必要性
[若山]:今まで、Future Tech AcceraratorとX-DOJO※4、二つのアクセレレーターでお付き合いさせていただいていますが、参加してみてどうでしたか?
[高野]:そうですね、以前の私だったら多分あまりものにしないで終わっていた気がするんですけど、本当に全てを学ぶという決意があって臨んでいたので、学べるところは本当に大きかったんじゃないかと思います。
[若山]:高野さんの中で変わった部分がありましたか?
[高野]:ありましたね。昔から自分のアイデアをいろんな人に話してはいるんですけど、否定的な意見と建設的な意見との違いをあまり区別できていませんでした。X-DOJOの後では、壁打ちしていく上で成長できる指摘っていうのと、ただ頭ごなしに否定するものとの違いっていうのをすごく大きく感じるようになりました。
Future Tech Acceraratorでの若山さんとの壁打ちの中で、自分の中でひっかかっている部分を解決したいという中で生まれたアイデアがハッチボットのモデルでした。この時に、壁打ちできる存在はすごく大きいと感じました。
X-DOJOに関しては、純粋にチームビルディングですね。チームの必要性っていうのは前から言われていたし、本を読んで理解はしていましたが、結局私の中では、メンバーというのは自分のアシスタントとか自分のコピーみたいな感じの発想でした。でもX-DOJOでは、自分が持っていない、自分とは全く違う才能の人と、同じ目的のために組めた時の爆発力っていうのを本当に肌で感じさせてもらいました。チームってこういうことなんだっていうがっちり感。それをすごく感じることができました。そこはやっぱり自分の殻を破ったんじゃないかなと思います。
[若山]:スモールビジネスとスタートアップのチームビルディングは全く違いますよね。
[高野]:はい、本当にそういう風に思いました。スモールビジネスの時って、ワンマン社長なんですよね。だから自分の言うことを聞くだけという人達だったから、私が道を踏み外しそうになった時も、そのまま迎合するというメンバーでした。でも、ちゃんと意見をぶつけ合える素の仲間みたいなのは、やっぱり全然存在が違うなと感じますね。
[若山]:ありがとうございます。今その理想のチーム作りに近づいて行っていますか?
[高野]:はい。近づいています。完成はしていないと思っていますが、近づいてはいます。
[若山]:ありがとうございます。 では最後にD’Artsの15期の中で一番辛かったことと、一番嬉しかったことを教えてください。
[高野]:一番辛かった事で言うと、まあ明らかなものが私の中で一つあって、社員の虚偽報告でお客さんに損害を与えたことがあったんですよね。開発を任せてた人が、ハリボテだけ作ってずっと順調に進んでますって言って、納品のちょっと前に飛んでいなくなるっていう事件がありました。その頃から、社員を信用することができなくなったんですよ。そういうこともあって、人を雇うこともちょっと苦手になりました。その事件が私の中で一番ショッキングで、かなりメンタル的にもやられました。
[若山]:その頃は何名ぐらいの組織だったのですか?
[高野]:その時は7人ですね。その後は社員が信用できなくなっちゃったから、知り合いの会社とかに頼んで転職してもらったんですよ。転職が終わるまでの給料は保証するから、転職活動してくださいって感じで、みんなにお給料出しながら辞めていってもらいました。
私は一旦フリーランスという形になって、自分でやりたいことをやりながら、見つめ直すみたいな期間がありました。それでそこから新しいこと始めるために東京に出てきて、VRに出会いました。
[若山]:では、これまで経営していて一番嬉しかったことは何ですか?
[高野]:一番嬉しかったことは、もうほんと直近の話なので、この間の幕張メッセでの展示会※5ですね。メンバーの皆が現地に来てくれて。あの瞬間はもう感動して泣きそうでしたね。
[若山]:メンバーが来た瞬間にもう泣いちゃった。
[高野]:泣いてないですよ。接客とかもしてたし(笑)。でもなんかこれまで、あまり社員との集合写真なんて必要ない派だったんですけど、あの時はもう本当に自分から撮りたくてしょうがなくなってですね。あの時は本当に楽しかった。
[若山]:以前の高野さんとは変わったんですね。
[高野]:いや、えらい違いだと思いますね。どっちかというとあまり人と関わりたくないタイプだったので、本当にそこは大きく変わったところだと思いますね。
[若山]:すごくいい話ですね。嬉しかったことも辛かったことも、人が大きな鍵なんですね。ものすごく中身の濃いお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
【告知】
インタビュー内でも言及があった「ハッカソンイベント」は、2月19日に開催予定です。VRアニメーションビルダー「Hatch-Pot VR」を利用したノーコードでセリフやシナリオを入力するだけでのVRアニメーション制作が体験できます。
今回は、最大で3分間ほどのVRアニメーションをツール開発メンバーのサポートを受けながら制作していただきます。
「Hatch-Pot VR」に興味がある方、ノーコードでVRアニメを開発してみたい方はぜひ以下URLより参加をお申し込みください。(先着10名)
申し込みURL:https://hatch-pot-vr.connpass.com/event/237296
【注】
※1 「東京クロノス」「ALTDEUS: Beyond Chronos」などのストーリーベースのVRゲームの開発及びパブリッシングを行うMyDearest株式会社。MyDearest株式会社はTokyo XR Startups第3期参加チーム。
※2 株式会社ActEvolve(現在株式会社VARK)はTokyo XR Startups第3期参加チーム。現在は、バーチャルライブプラットフォーム 「VARK」 の開発・運営を行っている。
※3 Future Tech Acceraratorは、弊社が2021年1月〜6月にかけて行った、VR/AR/MRなどのXR技術を活用したイノベーション創出に挑むアクセラレータープログラム。
Webサイト:https://www.futuretech-accelerator.com
※4 X-DOJOは、弊社の所属するXVC有限責任事業組合が運営する、シード期のスタートアップに対しシード出資、教育プログラム、メンタリング、バックオフィス支援、オフィス提供、デモデイ開催などの支援メニューを提供する約4ヶ月間のプログラム。現在はX-DOJO2022 Winterが進行中。
Webサイト:https://x-vc.jp/
※5 2021年11月17日(水)〜19日(金) 幕張メッセで開催された「デジタルコンテンツEXPO 2021」
聞き手:ブレイクポイント株式会社 若山泰親
撮影・記事編集:ブレイクポイント株式会社 村上賢誠